「返済が終われば資産になりますよ」その言葉を信じた結果
不動産投資を始めようとすると、必ずといっていいほど耳にするフレーズがある。「ローン返済が終われば、あとは丸ごと資産になります」「月々わずかな持ち出しで将来の年金代わりになります」。こうした甘い言葉に背中を押され、新築ワンルームマンションを購入する会社員は少なくない。
しかし現実は、そう単純ではない。月々のわずかな赤字が、物件数が増えるにつれて雪だるま式に膨らみ、生活を圧迫するケースが後を絶たないのだ。この記事では、実際に新築ワンルーム投資で大きな赤字を抱えた事例と、国土交通省の実取引データで検証した「東京ワンルームの収益性の現実」を具体的に解説する。
9室購入で月20万円の赤字に膨れ上がった事例
ある40代の会社員は、不動産営業マンの勧めで新築ワンルームマンションを購入した。最初の1室は月々約1万円の持ち出し。「これくらいなら問題ない」と感じ、営業担当の「複数持つことでリスク分散になります」というアドバイスに従い、次々と物件を買い増していった。
結果、合計9室を保有するに至った。しかし、物件が増えるごとに赤字も積み重なり、最終的に毎月の持ち出しは約20万円にまで膨張した。年間に換算すると240万円の赤字である。
この事例の問題点を整理すると、以下のようになる。
- 新築プレミアム価格:新築ワンルームは市場価格に2〜3割のプレミアムが乗っており、購入した瞬間に資産価値が下がる
- 家賃下落リスクの軽視:新築時の家賃は「新築プレミアム」で高めに設定されるが、入居者が退去すると中古相場まで下がる
- 複数購入による赤字の積み上げ:1室あたり月1〜3万円の赤字でも、9室なら月9〜27万円の赤字になる
- 出口戦略の欠如:売却しようにも、残債が売却価格を上回る「オーバーローン状態」で身動きが取れない
実取引データが示す「東京都心の収益性」の現実
「利回りが良い」「東京なら安心」——こうした営業トークを、国土交通省の実取引データで検証してみた。
当ダッシュボードの投資スコアでは、6つの軸で不動産の投資適性を100点満点で評価している。東京の主要エリアの「収益性」スコアは以下の通りだ。
| エリア | 平均取引価格 | 収益性スコア | 総合スコア |
|---|---|---|---|
| 東京23区全体 | 6,944万円 | 11/20 | B(63点) |
| 中央区 | 1億408万円 | 2/20 | B(60点) |
| 港区 | 1億5,423万円 | 2/20 | B(59点) |
中央区と港区の収益性スコアは、20点中わずか2点。これは物件価格の上昇に対して、賃料の上昇が全く追いついていないことを意味する。
仮に港区の平均1.5億円のマンションを購入し、月40万円で賃貸に出した場合、表面利回りは約3.2%。管理費・修繕積立金(月5〜8万円)、固定資産税、空室コストを差し引くと、実質利回りは1〜2%。ローン金利が1.5%を超えた時点でキャッシュフローはマイナスになる。
一方で価格トレンドは満点の15/15。つまり「値上がりはしている」が「家賃では儲からない」という状態だ。新築ワンルーム投資で赤字になるのは、まさにこの構造が原因だ。
「利回り8%」に飛びつく前に知っておくべきこと
営業マンから「利回り8%の物件があります」と言われたら、まず疑ってほしい。なぜなら、東京都心で利回り8%は現在の市場ではほぼあり得ない数字だからだ。
上記のデータが示す通り、東京23区の平均的な表面利回りは3〜5%程度。8%を謳う物件は、以下のいずれかに該当する可能性が高い。
- 想定家賃が現実離れしている:新築プレミアムの最高額で計算し、空室や家賃下落を考慮していない
- 物件に問題がある:事故物件、管理状態の悪い築古、駅から遠い等の理由で安い=利回りが高く「見える」
- 経費が反映されていない:表面利回りの数字で、管理費・修繕積立金・固定資産税・空室コストを含めていない
表面利回り7%の物件でも、見落としがちな5つの経費を引くと実質2%以下になることは珍しくない。
慎重に中古1室から始めて5年で利益を出した事例
一方、同じ会社員投資家でもまったく異なるアプローチで成功しているケースもある。あるサラリーマン投資家は、以下の基準で物件を選定した。
- 築15〜20年程度の中古物件(価格が新築の5〜6割程度に落ち着いている)
- 駅徒歩10分以内で賃貸需要が安定しているエリア
- 購入価格は年収の2倍以内に抑制
- 実質利回り5%以上を最低ラインに設定
なぜ築15〜20年なのか。ダッシュボードのデータで検証すると、東京23区の築年数別平均価格は、築5年以内の8,881万円に対し、築15年で6,609万円(-26%)。そこから築25年の6,166万円まで、価格の下落はわずか5%に縮まる。つまり築15年が「価格の底打ち」に近く、ここで買えば値下がりリスクが小さい。
この投資家は5年間の運用で税引後数十万円のプラスを実現した。金額は大きくないが、「赤字を出していない」ことが最も重要なポイントだ。
新築ワンルーム投資で失敗しないための5つのチェックポイント
1. 新築プレミアムを数値で把握する
同じマンションの中古価格と新築価格を比較し、プレミアムが何%乗っているかを確認する。一般的に新築ワンルームは購入直後に20〜30%価値が下落するとされる。3,000万円の新築なら、買った瞬間に600〜900万円の含み損を抱える計算だ。
2. 35年間のキャッシュフローをシミュレーションする
家賃は築年数とともに下落する。目安として、築10年で5〜15%、築20年で15〜25%の下落を見込んだシミュレーションを行うべきだ。管理費・修繕積立金の値上がりも考慮に入れる必要がある。
3. 空室リスクを最悪ケースで計算する
「空室率5%」などの楽観的な数値ではなく、年間2〜3ヶ月の空室が発生した場合のキャッシュフローを確認する。空室期間中もローン返済・管理費・修繕積立金は発生し続ける。
4. 売却時の残債と市場価格を比較する
5年後・10年後に売却する場合、ローン残債と想定売却価格の差額がどうなるかを試算する。オーバーローン状態では「売りたくても売れない」状態に陥る。
5. 1室あたりの最大許容赤字額を決めておく
「月1万円くらいなら」と思っていても、修繕費や固定資産税を含めると実質的な持ち出しは月2〜3万円になることが多い。手取り月収の10%を超える赤字は危険信号と考えるべきだ。
冷静な判断のために——データに基づいた投資分析を
不動産投資で最も危険なのは、営業トークや感覚だけで判断してしまうことだ。
今回紹介した「収益性スコア2/20」「築15年で価格-26%」「港区の表面利回り約3.2%」といった数字は、いずれも国土交通省の公的データから算出したものだ。営業マンのセールストークと、こうした客観的データを比較するだけでも、冷静な判断ができるようになる。
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